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編集現場の裏話をシェア!英単語集をつくるお仕事

こんにちは。元・英語教材編集者のころすけです。かつて出版社の編集部にて、中高生や社会人向けの英単語集を何冊も作ってきました。そんな編集現場の裏話をシェアしたいと思います。

単語暗記は英語学習の基本中の基本!

英語学習といえば、ボキャブラリー増強はとても大事です。多くの語彙は、その人の知性を表します。ビジネスシーンで英語が必要だという人なら、自分の専門分野(たとえば金融、鉄鋼など)について特にそこを深堀りして語彙を覚えていくことが求められます。英語圏で日常生活をするのに困らない程度の語彙を身につけたいならば、「広く・浅く」という方針で学んでいったほうがよいでしょう。
どんなに英文法テストの成績がよくても、結局は豊富な単語力こそが正確な意思疎通の助けとなります。貧困な語彙を振り回しているだけでは聞いている側も「なんとなく」「ふわっと」しか理解してくれません。あなたがいくら正しい英文法で正しい英文を発しても、使われている単語が適切でなければ、おそらく言いたいことは半分ほどしか相手に伝わっていないのではないでしょうか。意図していたことと違うニュアンスで解釈されることだってあります。一発で的確に相手に伝えるには、やはり語のチョイスが肝ということです。
アウトプットだけではありません。インプットだってしかりです。外国製品の説明書などの英文を読む場面で、もしあなたの語彙が不足していてはそこに書いてあることがわかりません。知らない単語が英文全体の5%以上を占めると、理解に支障をきたすと一般的には言われています。
このような理由で、語彙はあなたのコミュニケーションの完成度を左右しますし、あなたの情報吸収量にも影響します。あなたの目的とレベルに合わせて「英単語集」を1冊手元に置いておくことは、life-longの英語学習者としてたいへん意義があることと言えます。

使用頻度を知るには「コーパス」を使う

さて、単語集とひとくちに言っても、目的に応じてさまざまな語がそれぞれの単語集に収め分けられています。あなたならどんな単語集を選びますか?また、これまで使ってきた単語集にはどんなものがありますか?
市場に出回る多くの英単語集は、試験突破のための対策書として刊行されています。たとえばTOEIC860点突破用の単語集、英検1級突破用の単語集、それに東大合格用の単語集…数え上げたらきりがありません。たまに、旅行英会話用の必須英単語集や、接客従事者用のおもてなし英単語集なんてのもありますが、こういったものは書店における英語教材の販売シェアとしては小さいでしょう。
ほとんどの単語集は、「コーパス」というシステムを頼りに収録語が決定されます。たとえば英検1級突破用の単語集ならば、英検1級の過去問題10回分から単語の使用頻度を割り出して、使用頻度順に収録語を決めていきます。そのほうが読者を合格に導く可能性が高いからです。東大合格をうたったものなら、東大二次試験の過去問題での単語の使用頻度を見ます。TOEICの場合ですと、初級/中級/上級いずれの受験者も同じテストを受けますから、単にTOEICテストでの単語の使用頻度だけを材料にするのではなく、CEFR表にしたがってたとえばTOEIC860点層とTOEIC600点層とそれぞれマッチするほかの資格試験(英検〇級など)での使用頻度と合わせて見ます。TOEIC860点突破用の単語集と、600点突破用の単語集の収録内容がまったく同じになってはいけないからです。レベルに応じた収録語の選定は、単語集の編集にはたいへん重要な要素です。
もちろん、単純に頻度を順にカウントしていけば、aやthe、それにitなどが上位を占めます。giveやtakeなどの基礎動詞のほか、前置詞toなどもきれいに取り除いてやらないと、コーパスで出た結果はそのままではとても使えませんので注意が必要です。編集者個人の感性に基づいて不要語を排除していくわけではありません。参考となるレベル別の英単語テーブル(データベース)というのが国内外にいくつもあるので、それらを駆使して、きちんと読者に説明できる単語選定をしていきます。
どの教材出版社においても、こうしていくつもテーブルをリンクさせていく作業はMicrosoftのAccessでおこなうことが多いでしょう。筆者が編集部勤務でいちばん驚いたことは、何より使用ソフトの偏りでした。てっきりWordを日常的に使うと思い込んでいましたが、いざ編集者生活が始まってみるとExcelやAccessばかりでした。この点、読者の皆さんには新鮮に聞こえるかもしれません。

品詞分類の難しさ

編集者にとって悩ましいのが、品詞分類です。たとえばtapという動詞がありますが、これは名詞形でもtapですよね。actとactionのように明確にスペリングが異なればいいんですが、まったく同じスペリングであれば、どの品詞として掲載するかは毎度頭を悩ませます。
こんなとき頼れるのが、コーパスにさらにひと手間をかけて検索する技術です。ここ数年で飛躍的に性能がアップしたこともあり、ある単語が動詞として使われているのか名詞として使われているのかを分けて使用頻度を検索できるようになりました。少し前までは、語末に-edがついていれば動詞として判断する、なんて考え方をコンピューターに仕込むのが主流でした。手製で検索条件を入れ込むわけです。ほかに動詞の不規則動詞変化活用表(go-went-goneなど)とリンクさせて、コンピューターが見た目上で動詞だと判断できるようにしていたんです。でもこれだとtapsというスペルの場合は、動詞の三単現の「-s」なのか、名詞tapの複数形「-s」なのか、判断がつきませんよね。今は、文脈によって品詞を自動で判断するオプションまでついています。とても専門的になるので仕組みまではご紹介できませんが、コーパスは日々進化しているということはぜひお伝えしたいと思います。翻訳ソフトやらAI技術が不完全ながらも少しずつ現実的に役に立ち始めているのと同じように、文脈で品詞分類をするコーパスの技術もレベルアップのさなかにあります。

単語を覚えてもらうための工夫

せっかく単語集を購入してくれた読者のために、編集者はいくつか工夫をこらして「覚えやすい」ように誌面に気を配っています。
わかりやすいのが、チェックボックスです。1つの英単語につき2つないしは3つの、小さな空欄の正方形(□)が添えられているのをご覧になったことがありませんか? 覚えた単語には手書きでチェックマークを書き入れていくためのものです。具体的な使い方は自由ですが、たとえば2人ペアで英単語クイズを出し合ったりするなど、さまざまに応用が利くものです。
ほかに赤セルシートはご存じでしょうか? 下敷きよりも少し薄い、赤色の半透明フィルムです。英単語が黒字で、また日本語訳が赤字で印刷されているとしたら、赤セルシートを上からかぶせると日本語訳が消えますよね。こうして訳を覚えているかどうかのセルフチェックができるわけです。これなら、リング綴じの「単語カード」を購入して自分で単語カードを作る手間が省けますね。
また、「実際の単語の使われ方を見て覚えないと、覚えられない」というタイプの人もいます。英文の中で出会った単語を都度覚えていくタイプの人ですね。こういったニーズに応えて、多くの英単語集は単語1つにつき最低1つの例文をすぐ横に掲載しています。さらに気を利かせている場合だと、コーパスを駆使して「もっともよく起こりうる語のコンビネーション」で例文を作成してあげているんです。この動詞ならこの目的語で使われることが非常に多い、なんてことが例文に反映されていたら嬉しいですよね。
さらには、正しく第一アクセントを身につけてもらうため、単語の上にカタカナのルビを振って、第一アクセントだけ太字にしてあることもあります。大学受験界ではまだまだ発音・アクセント問題は廃れていません。economics や politicianなどのように日本人学習者がアクセントを間違えやすい単語は意外に多く、これらを単語集の中でケアしてあるのはとてもいいことだと思います。実際に、発音・アクセント問題のジャンルに特化した参考書/問題集の刊行点数は非常に少なく、ほとんどの出版社は単語集の中で発音・アクセントをケアしているようです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。次の記事では「英語長文問題集」について、教材編集部が気を付けていることや、おもしろトークを共有したいと思います。

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