サイトアイコン EnglistA [イングリスタ]

小学校でおこなわれる英語の授業、導入のABCはいかに!?

こんにちは。ころすけです。仕事柄、都内公立小学校の英語の授業をよく見学に行くんですが、一番初めのころの英語の授業ってどんな内容なのか気になったことはあるでしょうか? 導入期には欠かせない「ABCの読み方」「ABCの書き方」について、現場の様子をレポートしたいと思います。

やっぱり定番、ABCソング

アルファベットには、大文字・小文字でそれぞれ26字ずつありますね。小学校英語では、3年生になってはじめてアルファベットに触れるのが一般的です。
さあこの最初の”英語の導入期”について、ご自身のことを振り返ってみていかがでしょうか? 何か思い出しますか? 今も昔も変わらず、はじめは「ABCソング」を何度も歌い込むのが授業の定番です。これぞ、ザ・導入。「きらきら星」のメロディーに乗って「A~B~C~D~…」と替え歌をすればよいので、だれにでも歌えるシンプルなものです。
ただし、ひとつ落とし穴があります。歌詞が微妙に違うんですよね…! 世の中にはいくつものバージョンがあります。アルファベット部分を除いた最後のパートは、「Now I know my ABCs, next time won’t you sing with me」と歌うものもあれば、「Happy, happy, shall we be when we learn our ABCs」なんて歌うものもあり、果ては「Happy, happy, I’m happy when I learn my ABCs」なんて派生まであります。過去にすでに習い事の英語教室でこの歌を覚えてきてしまっている生徒は、小学校で習う歌詞との違いに意固地になって「ちがうもん!」とふくれっ面をするのも、小学校の教室内でよく見かける光景です。
ちなみにこの「ABCソング」ですが、中高生になっても英和辞典を引くときに心の中でつい歌ってしまった経験はありませんか? これは実に多くの人が同意するエピソードです。電子辞典と違って紙の辞典の場合は、アルファベット順を知らないと単語を引くことができませんよね。日本人が国語辞典を引くときは、あいうえお順をメロディーなしで完全に頭の中に再現できるのに、英和辞典はどうしても「ABCソング」の洗礼が強く頭に残り、無意識にメロディーが出てきてしまうんですね。

文字に親しませるために

まずは大文字26字を完全に覚えきったあと、小文字26字の習得に移るのが文科省の示すガイドラインです。「A,a」「B.b」…とセットで覚えていくような教科書のつくりにはなっていません。小学校の授業では、1文字ずつの独立した文字カードを作り、黒板にマグネットで貼り付けて説明するのが一般的です。教科書にももちろん文字が載っていますが、それらはアルファベット順に整然と並んでいるために、1つ1つの文字を「覚え込んでいく」という作業には適していません。あくまでアルファベット順はこういう並びである、というのを覚えるのに適しているということです。
さて、1文字ごとに「書き順」を学んでいく前に、まずは文字の「読み方」を覚えることが求められます。まずは順番にA(エィ),B(ビィ),C(スィ)…と発音していけばよいのですが、3周ほどしたら教師はABC順を解体してランダムに26文字を黒板に並べていきます。こうなると生徒たちも勝手が違ってきますね。しかし、大文字の場合はふだんから生活の中でなじみがあるのか、比較的よくみんな正解します。テレビコマーシャルや街頭でなんだかんだ目にするのでしょう。ところが小文字の場合だと、これが意外と時間がかかるんです。「q」などはその筆頭です。小文字の習得は、大文字の2倍から3倍ほどの時間を要します。
またカードを用いて学習するメリットとして、上下または左右にカードを回転することができる点が挙げられます。5つ並べて「この中で1つだけ間違っているアルファベットがあります、正しく直してください」とあえて1枚だけ向きを変えて、生徒に質問を投げかけます。当てられた生徒は、どの文字が間違っているのかを指摘し、正しく直させるというタスクも授業中によくなされます。小文字の「m」が縦に置かれた場合、不思議と大文字の「E」と類似性があるもので、同じ向きに(つまり右側に3本の足が向いているように)なっていては「Eの変形??」なんて不安にかられるようで、ここで堂々と手を挙げて「ここが間違っている!」と指摘する生徒が少なかったことに驚いたことがあります。

今度は「音」としてとらえてみる

「エィ、ビィ、スィ…」とアルファベット読みがひととおりできるようになったら、今度はアルファベットの持つ音を覚えるという重要事項があります。これは”超”重要事項にあたります。日本では、英米圏の子供たちのようにきちんと系統立ててフォニックスを学ぶ体制が整っていません(少なくとも義務教育の範疇では絶対に無理です)。ですから、発音ルールをあれこれ学ぶことには力点を置かずに、ひとまずアルファベットが本来持っている音を覚え込むことをゴールとしています。
「a」であれば「ア」、「b」であれば「ブ」、「c」は「ク」、「d」は「ドゥ」、です。これがアルファベットそれぞれの持つ音ということです。いちばんわかりやすい説明の例を出すと、「cat、ク、ク、ク、キャット」、「bat、ブ、ブ、ブ、バット」、「fat、フ、フ、フ、ファット」のように、頭文字だけが異なる単語を羅列することで音の違いを明快にわからせるという方法があります。これで子音の感覚を生徒につかんでもらうわけです。子音と子音の組み合わせ(thやchなど)まで扱うと、導入としては少しヘビーでしょう。まして母音と母音の組み合わせ(ooやoaなど)はたいへん難しいので、やはりこういったものは後から扱うことになります。まずは26文字の音を覚えることに注力するのがふつうです。
これだけでも実は、とても労力が要ることなんです。とても1回2回の授業では覚えきれないので、何か月後もずっと授業のはじめのほうで3分間ほど時間を割いて、26文字の音をALTに続いて全員で発音するのがふつうです。そして慣れてきたころに「th」や「ch」も含めていくようになります。

とても簡単なはずだけれど、しっかり時間をかける理由(わけ)

実際に小学校3年生においては、ほとんどの生徒がすんなりとアルファベットを覚え込んでしまいます。読み方はもちろん、正しく書くのにもそんなに時間を要しません。が、これは日本だからと言えるでしょう。言い換えれば、学ぶときにすでに小学3年生になっているがゆえ、です。
見落とされがちですが、幼稚園児ぐらいだと「書く」力が備わっていませんから、早期教育であればそれなりの大変さが伴います。正しくアルファベットを読み上げることはできても、それを自分の手で同じ文字を再現できるかどうかは別の話です。英米圏の子供たちだって、4歳ぐらいでは「S」を左右のふくらみが反対になって(鏡文字のように)書かれているのは当たり前の光景です。「N」も中央の斜めの棒がまったく上下逆になっていることも、「あるある」なんです。左上から右下に下ろすべき斜線が、左下から右上に上がっているんです…! 小文字はもっと大変です。「h」と「n」を明確に書き分けない子供が非常に多いんです。
筆者の学生時代を振り返ってみると、どこの学校も一斉に中学1年生になってから英語の授業がスタートしたので、アルファベットを正しく書けることなんて当たり前でした。しかし、小さい時期にスタートすればするほど、書き方には時間をかけるべきであるということです。インターナショナル幼稚園にわが子を通わせる保護者のなかに、アルファベットの書き方に執拗に時間をかけることに対して疑問視する人もたまにいます。しかし、そもそもの認知能力が備わっていない小さな子供に正しい書き方を教えるには、それ相応の時間を要するということを保護者はきちんと理解していないといけません。自身が早期教育として英語を学んでいない場合には、子どもが小さいときに学ぶメリットとともに、「正しいABC表記に時間がかかる」というデメリットも知っていないといけません。

最後に

アルファベットという英語の基本中の基本について、筆者が真正面からとらえ直してみたことはこれまでありませんでした。アルファベットの大文字と小文字、あわせて52字。これに対して日本語のひらがなは48字、カタカナは48字で、合計100近くもあります。さらに「がぎぐげご」や「パピプペポ」も入れると、非常に複雑な体系になります。日本語を学ぶ外国人の苦労がしのばれます。
英語は、子音じたいに濁音や撥音を含めてありますから、その点とても理解しやすいでしょう。日本語のように後づけで「てんてん」や「まる」を横に添えなくてもいいわけです。26字どれもが等しく価値を持つ表意文字ゆえに、文字ごとの持っている音を正しく知ることが重視されるのも納得がいきますね。小学校の英語の授業では、1年中ずっと授業のはじめに時間を設けて、アルファベット1字ごとに丁寧に音の確認をしていることが多いと言えます。そのため、生徒の耳も確実に育っていると言えるでしょう。早期教育を受けた者は「耳がいい」というのは、あながち嘘ではありませんね。
中学1年ではじめて英語の授業を受けた筆者は、本日も仕事中に聞き間違いのヘマをやらかしてしまいました。十字架という意味の「cross」という発音が目の前でされたのに対し、こちらは「cloth」という布地の話だと思い込んでいたので、当然会話の行き違いが起こってしまいました。綿がいいのか、自宅で洗える素材がいいのか、など、的外れな質問を相手に投げかけてしまいました。英検1級を取得した今でも「r」と「l」の違いはまったくわかりませんから、はっきり言って文脈にたよって判断しています。前後の文脈がない場合は、今回の「cross」と「cloth」の例のように、まるでとんちんかんな対応をしてしまいます。
小学校3年生から英語を学ぶにあたり、「音」への慣れが一番期待できるのではないかと個人的には強く感じています。その年齢はすでにアルファベットを正しく書くことはなんら問題がないでしょうけれど、しっかり時間をかけて「音」をインプットさせることは今後の大きな飛躍につながると信じています。ふだんの小学校の英語の授業の成果は人によってさまざまな形であらわれると思います。そのなかでも特に、「音」の聞き分けについては全般的に期待してよいと強く感じた次第です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

モバイルバージョンを終了