英語で仕事をするのはどんな経験か?(通訳の仕事の場合)

こんな時にこんなフレーズ
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英語で仕事をするというのは当然日本語を話せない外国人を相手にする仕事ということになります。
そこでは、単なる言語の違いだけでなく、文化の違い、考え方の違いをすべて理解して、相手に向かっていかなければなりません。英語を勉強する究極の目的はそこにあるのかもしれませんね。

「次の患者は強盗殺人です、でも大丈夫です!」

以前、法務省東京矯正管区にある、かなり大きな規模の矯正施設で働いていたことがあります。本来は日本人の収容者だけだったのでしょうが、最近日本で罪をおかす外国人が多く、その施設にもかなりの数の外国人が収容されていました。みんな日本語なんかできません。
でも日本の矯正施設に収容し罪を償わせ矯正するのですね。

日本語ができない相手にも伝えなければいけないこともあるし、むこうにも言いたいこともあるでしょうから、そういう人のために通訳翻訳をする人間が用意されます。その仕事をしていました。

やることはいろいろありましたが、まず施設内の病院でのことをお話します。
収容者が病気になると、病状の緊急度にもよりますが、施設内の病院に連れていかれます。たとえば急にかなりの発熱があればインフルエンザの疑いがありますから、感染が広がることを防ぐためすぐ病院に連れて行かれます。そこで検査をされその結果を医師から伝えるときに、私ような通訳者が呼ばれます。

医師が患者に向かって、「インフルエンザです、休養になります。」というのを聞いて私は即座に通訳しなければなりません。英語で言うとこんな感じです。

"After reviewing the inspection, you are positive of flue. You need to go to the hospital room instead of factory."

このくらいでしたらなんとかさらっと出てきます。休養というのは病室に隔離されることをいい、その間は工場での作業には行けません。彼らにとってはその間の作業報酬が出なくなるので、ちょっといたいのです。

また、おしりのあたりにひどく内出血しているような患者がいて、医師が、「蜂寡織炎(ほうかしきえん)ね。」と言ったときは大変でしたね。
日本語でも聞いたことのないような言葉を英語にするのは無理ですよ。当然持参の用語集を見てなんとか
“phlegmone” にたどりつきことなきをえました。

さて、この病院には女性の医師もいます、看護師の方(男性)が医師に次の患者の病状・経過およびどういう罪状かを伝えることがあります。通訳は通常医師の後ろにいますので、全部聞こえます。
女性の医師が診察のあるとき看護師さんが伝えました、
「先生、次の患者は強盗殺人です。」先生はマスクをしていて表情はよくわかりませんでしたが、一応「えー!」っていうような表情をしていたとおもいます。看護師さんはすかさず、「でも大丈夫です。」といっていました。
なにが大丈夫なのかわかりませんが、連れてこられたのは屈強な黒人の人でした。少々風邪気味で喉が痛いと言うことで薬の処方をされておとなしく帰っていきました。

不幸の告知

収容者あての手紙は検閲され問題なければそのまま本人に渡されます。しかしその中に身内の不幸の知らせがあるとちょっとやっかいなのです。そのようなショッキングなことを単に手紙で読んでしまうと、混乱し自暴自棄になり取り返しのつかないことになる可能性があるからです。

そういう手紙を渡すときは、当事者は別室に呼ばれます。ある工場で作業中だった人が担当の看守さんからいっしょに来るように呼ばれました。
そのひとはかなり高齢で手紙を読むためにはめがねが必要だったのですがあいにくそのときめがねをもっておらず、いったん自分の居室にめがねをとりにいきました。そして看守さんといっしょに用意されている別室に着くとそこには看守さんの上司と通訳者としての私がいました。もうその人はこれはただ事ではないとわかっており、かなりおろおろしていました。

上司の方から座るように促されいすに座ります。まあ私が一応、

"have a seat"

なんていうんですけどね。

つづいて、

「これから家族からの手紙を渡す、おちついてよく読むように。」
"Please calm down and read the letter from your family slowly"

といわれ手紙をわたされます。

そのひとは既に半泣き状態なのですが、めがねをかけて、手紙を読みます。母上の死去を伝えるくだりになるともうだめです。涙がとまりません。読み終わってもつっぷしたままです。上司の方が言います。

「このたびの不幸には心よりお悔やみを申し上げる。本日より3日間喪に服すことができる。作業を休んで自室で喪に服しなさい。気持ちを強く持って、いつもどおりの日常を送りなさい。」
"We'd like to express condolences, you can have three days mourning instead of work. keep your heart strong and spend day by day as usual"

その方は感謝の意を表し、担当看守さんとともにもどっていきました。後日その方は、その手紙をくれた妹さんにこのときの様子を手紙で書いておくっていました。たまたまその手紙の検閲を私がしたのでよくおぼえています。その手紙には、「看守や通訳はこういうことには慣れているようだ。」なんて書いてありました。

手紙の翻訳

収容されている人たちは、人によって違うのですが、月に数通の手紙を出すことができます。また受取ることもできます。それらは一応すべて検閲されます。ほとんど問題になるようなことはないのですが、仮に「来週脱獄する予定だ」とか「隠した金のありかは・・・」とか「あいつにうらみがあるからやっつけてくれ」なんて書いてあると大変なことになるわけです。私は一度もそういうのを経験しませんでした。

ちょっと問題なのが本当に唇でつけたキスマークなんかです。理由はよくわかりませんがだめなんだそうです。そのわりには雑誌の講読なんかはかなりゆるくて、結構露出している女性のグラビア写真のある書籍なんかも大丈夫みたいでした。

手紙の翻訳ですが、ほとんどが手書きなので文字を判読することから始まります。aなのかdなのか、rなのかvなのか、その判読だけでかなり時間がかかります。正しい文法なんか使っていないので、それぞれの文の意味を理解するのも大変でした。
そして日本人が習うことのない表現をよく使います。たとえば”kinda”。これはkind ofですが、日本の教科書に出てこなかった単語や表現については私たちは本当に弱いですよね。

英語での仕事

この経験談はちょっと特殊で、一般的に英語でする仕事って言うのは、企業の貿易部門で働くとか、あるいは外資系の企業でまわりはみんな外国人っていうような感じですよね。経験すればするほど、世界にはいろんな英語があるんだなと気づかされます。
常に柔軟な頭で、いろいろな経験から得ることを吸収し、成長していきたいですね。

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