ふだん日本語で仕事をしている中で、「期限は来月いっぱいですが、できるだけ『前倒しで』進めておいてください」とか、反対に「そんなに問題を『先送り』ばかりしていてはいつまで経っても解決しない」といった言い方をよく使います。
これらは日常生活でよりもビジネスで比較的使うことが多い日本語ですが、状況に応じてどんな英語が適切か、使い分けを紹介します。
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1.前倒し、前倒しする
「前倒し」が現在のような意味で使われ始めたのは、そんなに昔のことではない(といっても30年〜40年くらい前から)そうです。たいていこういう表現は政治家がコメントであいまいに言うために使い始め、それを大企業のトップがやはり会見などで使っているうちにビジネス用語として定着することが多いものです。
(1)front-load(動詞)
We need a radical front-loading of spending to meet the goal within a set time. 計画通りに目標を達成するためには、支出の思い切った前倒しが必要です。
日本語の「前倒しする」は本来この例のように、ある期間内に予定されている支出などを早めの時期に集中するという意味で使われ始めました。これに当たる英語の動詞がfront-loadです。(逆に、後の方に集中させるのをback-loadと言います。)
meet the goalは「目標を達成する」という言い方で、「達成する』に当たる動詞meetの使い方も覚えておいてください。
(2)revise(動詞)
We could revise the goal of 15% increase in three years, and shorten it to two years. 3年間で15%増加という目標を前倒しして、2年間に短縮することも可能と思われ、ます。
「前倒し」は日本語の中で使われているうちに、front-loadの意味だけでなくただ「早くなる、早くする」という意味で使われることが増え、その場面も広がって行きました。
ここでは設定されていた目標を早い時期に「修正する、見直す」ということなので、動詞reviseが使えます。reviseは新しい情報に基いて計画や意見などを修正することです。
(例)Let’s revise what is wrong about this program.
この計画の悪いところを訂正しよう。
(3)speed up(動詞)
The goal is set at the end of the year, but I believe we should speed up as much as possible. 目標は年末とされていますが、私はできるだけ前倒しして取り組むべきだと思います。
この場合は計画自体を修正するのではなく、そこまでの作業をもっと早くする、つまりスピードを上げるので、そのままspeed upを使っています。
(4)early / earliear(形容詞・副詞)
Students started job hunting two months earlier than last year. 学生が就活を始める時期が昨年より2ヶ月前倒しされた。
今年は経団連加盟企業を中心に、新卒採用の選考開始時期が昨年の8月から6月に早くなりました。この「前倒し」も単に昨年よりも「早くなる」というだけの意味ですね。そこでstart earlyと副詞earlyを使うのがいいでしょう。
(5)move up the date
Could you move up the delivery date? 納期を前倒ししていただけませんか?
move up the dateは「(設定されていた)日付を繰り上げる」という意味ですが、ここのdelivery(納品)のように具体的な内容を加えると、いろいろな場合に使うことができる表現です。たとえば
move up the release date of〜
とすれば「〜の発売日を前倒しする、繰り上げる」という意味になります。
2.先送り、先送りする
(1)put off / postpone / defer(動詞)
We had to put off the decision because only ten people could come. 2人しか会議に出られなかったので、決定を先送りせざるを得なかった。
この「延期する」という意味が一番基本的な「先送り」の使い方ですね。これに当たる動詞は1語ならばpostpone、特に口語でよく使われるのがput offという句動詞の形です。
実行や決定を「延ばす、延期する」という意味の動詞deferも「先送り」の意味に合った動詞です。
Many young people defer getting married until they find a good job. 良い仕事が見つかるまで結婚を先送りする若者が多い。
(2)avoid immediately(動詞)
He always avoids facing problems immediately. 彼はいつも問題を先送りする。
put offやpostponeは、単純に時期を後に変更するという場合から、今すべきことをあえてしないで後にする場合までさまざまですが、「先送り」という日本語には後者のような意図を含むのが普通です。
それをavoid(避ける)という動詞を使って、avoid 〜 immediatelyとすると「すぐに〜するのを避ける」ので「先送りする」に当たる英語になります。
(3)do 〜 later(動詞)
Let's not decide on this matter for now and do it later. 今はこの件についての決定をせず、先送りしましょう。
このように、not 〜 now(今は〜しない)、do 〜 later(後にする)という簡単な言い回しでも、「先送り」の気持ちは十分表すことができます。
(4)delay(動詞)
PM Abe said he would delay the planned increase of two percentage points in the sales tax. 安倍首相は予定されていた消費税の2%増税を先送りすると発表した。
delayは「〜を先延ばしにする、〜の時期を後にずらす」で、同じ形で「遅延」という名詞としても使います。
6月のこの発表を伝える英文のニュースで、delayが「先送り」に当たるというのを飽きるほど読んだので、すっかり覚えてしまいました。
(5)put on a/the back burner
The board put the decision on the back burner. 理事会はその決定を先送りした。
「先送り」も最後はイディオムを1つ紹介します。put 〜 on a back burnerは「後回しにする、優先順位を下げる」という意味でアメリカではよく使われています。
あなたの家の台所のレンジにはバーナー(burner)がいくつありますか?これが4つだと、このイディオムの意味がすぐわかります。4つバーナーがあるレンジではたいてい前(front)の2つの熱が強く、奥(back)の方はロングクッキング向きで、熱はそれほどでもありません。
つまり、put on the back burnerは「後ろのコンロに移す」という意味で、とりあえず急ぎではないことを表します。
「前倒し」「先送り」も状況次第でいろいろな英語の言い方がありますね。言葉を学ぶ時には「1つで使い回そう」と考えるといつか大失敗が待っています。英語の表現を考えていただく機会になればうれしいです。