公立小学校での英語研修員という仕事

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こんにちは、ころすけです。フリーランスとして、英語にまつわるさまざまなお仕事をしています。本日はそのうちの1つ、都内区立小学校における英語研修員のお仕事についてご紹介したいと思います。「へえ、こんな職業があるんだ~!」と思って気軽にお読みいただけたら幸いです。

公立小学校の英語教育の現状

全国に約2万校ある公立小学校ですが、都道府県それぞれの方針によって英語学習のスタート時期は異なります。2020年の新指導要領により全国的に号令がかけられ、統一方針のもとで英語教育が全面実施されることになっているのは周知のとおりです。今はそれに向けた準備期間のような位置づけです。
筆者の場合は、東京23区のうち、東側にある区の公立小学校を担当しています。放課後に先生がたを集めて1時間ないしは2時間の教員研修をおこなうのが仕事です。児童に英語を教えるのが研修員の仕事ではなく、先生がたの授業の構成や進行についてアドバイスをするのです。「トレーナー」とカタカナ表記で言い切ってしまったほうが伝わりやすいかもしれませんね。

基本はALTとのペアで授業をおこなう

みなさん、ALTという言葉を覚えていらっしゃいますか? そうです、英語の授業でときどき現れる外国人の先生ですよね。正しくは「Assistant Language Teacher」、これを略したのがALTです。ALTには金髪の白人の先生もいれば、髪はちりちりウェーブの褐色肌の先生もいますし、見た目はわれわれそっくりの香港出身の先生もいます。先生がたの国籍は実にさまざまですが、ここ10年くらいではフィリピン出身の先生が増えました。歴史的背景からアメリカ英語を使いこなす国民であり、南国らしい快活な人たちで、小学校現場にぴったりのお国柄でしょう。
さて、話がそれましたが、ALTの先生がたは基本的な立場は「Assistant」ですので、ALTひとりで英語の授業を進行することは推奨されていません。担任の先生はドアの近くでそっと見守るように立っているだけ、はご法度です。あくまで担任の先生が主導となり、ALTが補助的役割をするような授業を国は目指しています。

とは言っても、「ALTだのみ」の現実

国の示す方針としては、ペアで教えるときの主導者が担任の先生で、ALTはサブであるということですが、これは言ってみれば無理な注文です。地道に何年もかけてやり遂げることは可能ですが、こういったソフト面での変化はすぐに表れません。教育特区でモデル校のような扱いになっていない限り、ほとんどの公立小学校では担任の先生の介入度は大きくても50%ほどなのが現実です。だんだんこれを膨らませて、最終的には80%程度になるような授業のあり方を目指しています。
こういった現場に必要なことは大きく2つ、「あくまで担任の先生が授業をリードする」というマインドセットの共有、それからそれを実現するためのテクニックの共有です。担任の先生に授業の司会進行をしてもらうためには、決まり文句を暗記してもらう必要だってあります。天気や曜日の確認に始まり、集中していない子に注意を促す言葉がけ、またアクティビティからアクティビティに移るときの仕切りなど、これらをALTでなく担任の先生がすべておこなうのは想像よりもずっと難しいことなのかもしれませんね。

民間のALT派遣業者が小学校現場をお助け

東京都の場合は、区ごとに権限があたえられており、「うちの区は○○社にALT派遣を依頼する」と年度ごとに決定することができます。この種の民間業者はたくさんありますが、ただ学校にALTを派遣するだけでなく、区教育委員会と頻繁に方針確認をしたり、教員研修の日程を組んだりします。英語の年間授業スケジュールを学校と一緒に組み立てるのも業務の一部です。国から教科書は与えられているものの、それをどう料理して教えていくかは学校しだい。たとえば「教科書のUnite 3を4回に分けて授業をするというだいたいの目安は示されているものの、1回目の授業では何をしたらいいの? 2回目と3回目には、どの程度の復習時間を設ければいいの?」など、実際に授業を任されている先生には不安が尽きないものです。
そんなとき、ALT派遣業者はサービスの一環として、先生がたへの研修を年に2~3回学校ごとに提供しています。放課後や、夏休みなどを利用します。研修ではクラス全員が参加できるアクティビティの例を紹介したり、子どもたちの理解度を確認する方法をみんなで考えたり、ほかに英語の歌や子供たちほめるときの言葉のバリエーションなど、先生がたの”引き出し”を増やすことにも貢献しています。ある研修では、研修というよりも相談会としてまるまる時間を使うときだってあります。先生がたが宿題として課されたものを発表する場になったりもします。たとえば「can と can’t を使ったゲーム例にはどんなものがあるか?」などです。

「なんだかんだ、英語も教えられるでしょう?」の誤解

小学校の先生はまさにマルチプレーヤーで、まんべんなく各教科を教えながら、子どもたちのしつけ面にも目を光らせ、運動会や学芸会の行事もこなしてしまうという神のような存在だと筆者は思います。PTAや地域との渉外役だったり、学年主任だったり、こういった役職についてしまうとさらに大変ですが、なぜか先生がたは毎日笑顔で子どもたちと接することができます。クラス担任をするだけでも管理者として求められるものは多いのに、国語や算数はもちろん、体育に図工に、なんでも教えられるのが不思議でなりません。
ですから、なんだかんだ英語もきちんと教えられるんだろうと思っていました。小学校の先生というのはもともと人間的なキャパと能力のキャパが大きな人だけが就くことができる職業だ、というのが筆者の持論です。よって「自分が英語を教えることはできない」なんて言う先生がいるのは、謙遜にちがいないと思い込んでいました。特に国公立大の教育学部出身の場合だと、あのセンター試験の英語を受験して、晴れて合格を勝ち取ったわけです。
ところが、「自分が英語のテストでいい点をとる」のと「自分がリーダーとして英語の授業をおこなう」は全然異なる能力のようでした。では、それはなぜなのでしょうか? 以下、つぶさにみてまいりまよう。

理由その① 恥ずかしさ

これは先生個人の気質の問題だと思いますが、学校で「元気キャラ」「おもしろキャラ」で通していない場合は、ALTの発言にジェスチャーで大げさに反応するなんてことが難しいでしょう。ジェスチャーと表情は子どもに英語を教えるのにはとても重要な要素です。英語の歌を歌うときだってそうです。歌詞に合わせてときにジャンプしたり、顔芸も必要だったり、シャイな先生にはハードルが高いかもしれませんね。明るく楽しい英語の授業をうまく演出することにプレッシャーを感じる先生も多いようです。

理由その② ALTとのコミュニケーション不足

ALTによって日本語能力が異なります。在日数年となれば、日常会話はほぼ問題ないでしょう。しかし、あいさつ程度しか日本語が話せないとなると、先生がたもALTと積極的に授業のことを話そうという気にならないのが現実ではないでしょうか。Good morning. や How are you? といったコミュニケーションはきっと完璧にできているのでしょうけれど、一歩踏み込んで「来週のうちのクラスの英語の授業のことですが…」なんて話を持ちかけるには勇気が要ります。

理由その③ 筆記試験だったらできるのに…

最後に、「瞬発力」の問題があります。研修時のゲーム練習を見ていて筆者が感じたことですが、先生がたの英文法知識はほとんど完璧です。ところが瞬時に口をついて出るのは、まちがった英語であることも少なくありません。I can play tennis, I can play soccer…のように、つい「I can play swimming.」なんて言ってしまう場面を何度も目撃しました。ゲームの最中で瞬発力が必要とされる場面でしたから、無理もありません。もしこれがテストペーパーで問われるようなケースだと、「I can swim. が正しい(=I can play swimming. はまちがい)」と冷静に判断できるはずです。それでも、口に出して英文を言ってみるのはまた別の次元の話で、わかっている文法でもいざとなると正しく運用できない事実は現場でもしっかり認識されており、ますます気持ちは閉ざしてしまうばかりです。

上記の理由から、先生がたが英語の授業に苦労していることは肌で感じます。しかし、それでも着実に歩みを進めていくために、われわれのような民間業者による研修などを活用しながら来たる2020年の小学校英語教育本格始動に向けて準備を進めています。
今回は研修員の立場から見た公立小学校の英語授業についてレポートさせていただきました。お読みいただきありがとうございました。

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