英語教材の音声録音現場

教材
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こんにちは。元・英語教材編集者のころすけです。前回の記事に引き続き、これまでの編集者生活を振り返って「英語教材のつくり方」をシェアしたいと思います。
今回は音声についてです。一番一般的なのは、本に付属CDがついているパターンですね。また最近はCDを付けるかわりに、音声をMP3形式などでダウンロードしてもらうパターンがあります。いずれも録音スタジオで音声を収録します。

録音スタジオに行くの??

ミュージシャンでもないのに録音スタジオ?? と思われるかもしれませんが、世の中には意外とナレーション用スタジオというのが点在しているものなんです。スタジオの規模によりますが、録音室が1室あるいは2室、エンジニアさんが数名いらっしゃるのが一般的です。吹き込み者であるナレーターさんは、ほとんどの方がフリーランスでお仕事をされていますので、案件ごとに発注するしくみです。

英語教材ならこうオファーする

多くの英語教材では、日本人ナレーター1名と、英語ネイティブ話者の男女1名ずつを手配してもらいます。ナレーターは合計3名という体制が一般的です。アメリカ発音の方が1名、オーストラリア発音の方が1名、なんて指定もできます。TOEIC対策教材では地域別の英語の発音の聞き分けが大切になってきますから、発音にあえてバリエーションを持たせた編集方針はユーザーの需要にマッチしています。
日本人ナレーターは、たとえばCD冒頭で教材名を読み上げたりします。ほかに、「このCDは終わりです。DISC2に替えてください」なんて注意も、日本人ナレーターの声で吹き込まれているのをよく耳にしませんか? このように日本人ナレーターはおもに事務的な役割を担ってくれることが多いです。
一方で英語のナレーションは、ときに会話、ときにモノローグ(長文を1人の声で最後まで読み切ること)、とスクリプトによりさまざまです。会話文は必ず男女でかけあいをして録音をするようにします。男性どうし、あるは女性どうしだと、声の聞き分けが困難であるという理由以外にも、教材に印刷されるスクリプトで「男:女:」「M:W:」のように示すことができなくなってしまうためです。「男1:男2」なんて煩わしいので、やはり「男:女:」が明快でよいでしょう。

編集者は録音に立ち会う

スタジオのエンジニアと椅子を並べて、編集者も録音室のすぐ前、ガラス張りになっているところに座ります。手元のスクリプトどおりに実際に録音が進んでいるかの確認をその場でおこなうのです。
スピードは、早めたり遅くしたり、スタジオ側の技術でわりと何とでもなるものですが、ナレーターの読み間違いはその場で正しいものを撮り直すしかありません。あとで間違いに気づいて再録音となる場合は、同じスタッフを同一日時に集めなくてはならないので大変です。できるだけその場で誤りを修正するように心がけます。
さて、このとき編集者の集中力がフル稼働することは言うまでもありません。収録が2時間を超えると、もう耳も脳もぐったりです。エンジニアは機械の操作に没頭するので、スクリプトどおりの内容で間違いなく進行しているかどうかをチェックするのは編集者1人になります。
おもしろい現象ですが、日本人でも日本語を読み間違えるのはしょっちゅうですし、同様に英語ネイティブ話者も英語を読み間違えます。単複の不一致、時制の不一致なんて、日常茶飯事です。文法的におかしいと読み上げているうちに気づいてほしいところですが、あちらはあちらで声を出すことに集中していますから、「正しさ」にまで気が回らないようです。読み誤ったら編集サイドから注意してくれるので気にしない、といったスタンスの方がほとんどのように見受けられます。そのくらいの気構えでいないと、ナレーター業はやっていけないのかもしれませんね。息継ぎ箇所を気にしたり、ときに演技をしたり(老人の声のふりなど)、彼らには彼らの頑張りどころがありますから。

録音に立ち会いの必須アイテム

英単語のアクセントが正しく発音されるように、編集者は何種類かの英和辞典・英英辞典をスタジオに持ち込むようにします。たとえば「employee」という単語は、後ろアクセント(第三音節にストレス)で発音することが公式のように大学受験界で長年言われていますし、発音アクセント問題でもお決まりのように毎回出題される代表格の単語です。しかしこの「employee」は、実際は第二音節にストレスを置いて発音されることも同じくらい多いんです。ネイティブにとって一番自然な形で発音してしまうと、大学受験参考書としてはNGということになります。
上記の理由があるので、編集者はネイティブの口から出てくる発音をそのままOKとしてはいけません。ときに「もう一度この発音でお願いします」と頼む根拠を示すのに、辞典の発音記号が必要になるんです。
ちなみに日本語アクセント辞典は、たいていの録音スタジオに常備されています。アナウンサー職の方がいつも参考にしているのをご覧になったことはありませんか? 有名な「橋」「箸」「端」の違いはもちろんのこと、ふだん日常会話には出てこないような地方の特産物名のアクセントまで書かれています。
ほかに、編集者が持っていくのはナレーター用の差し入れです。「喉が命、乾燥大敵!」ということで、のど飴やはちみつウォーターなどを録音が始まる前にお渡しします。ときに収録が正午にさしかかる場合は、カロリーメイトなどの軽食も持っていきます。集音マイクはお腹のグ~という音も見事にキャッチしてしまいます。ナレーターさんをなるべく空腹にさせないよう、適度にお腹に入れてもらいたいのです。

収録のあとは?

録音が終わったら、CD2枚程度であればだいたい1週間ほどでエンジニアがデモCDを作ってくれます(音声データをweb上にアップロードしてもらう場合もあります)。これをもとに、編集者と校正者が音声チェックします。
スクリプトどおりに読まれているかのチェックはもちろん、音飛びやポーズの長さ、音量の適正さ、またスピード感もみます。英語教材において「スピード」は非常に大切な要素です。学習者レベルによって、「WPS」の設定が異なります。これはWord Per Miniteの略で、1分間あたり何語を読むかということです。高校生ぐらいなら140~160WPMあたりが適正でしょう。
さらに、教材校正紙と照らし合わせて、対応するページ番号や章番号と合っているかどうかもみます。ここがずれていれば、エンジニアに連絡して音声編集を頼みます。「あそこのアレを切り取って、ここに貼り付けて」ということです。言ってみれば、つぎはぎですね。音の撮り直しの必要がなく編集だけで済めば、予算もぐっと抑えられて編集者としてはここでひと安心します。逆に再録音が必要だとわかれば、編集長に思い切り嫌な顔をされます。ナレーター1時間単価も、エンジニア1時間単価も、またスタジオ1時間単価も、業界の最低価格じたいがすでに高いからです。再録音が1時間発生すると10万円にはなってしまうんです。

最終段階でトラック番号チェック

音声の校正もいよいよ終盤となったら、最後はCDトラック番号のチェックです。PCアプリケーションのiTunesやMedia Playerなどで、また実際にCDラジカセなどの再生機器にCDを入れてみて、それぞれ各トラックの頭出しをしたとききちんと割り振った通りの内容で聞こえてくるかどうかをチェックします。CDの形態をとらない場合は、ダウンロード管理番号のチェックをするということになります。
これでOKなら、晴れて音声は「校了」(編集業界で言うところの「手離れ」「完了」)を迎えます。書籍のほうがまだまだ編集進行中でありながら、音声だけでも済めば肩の荷が半分下りたように楽に感じる編集者は少なくありません。

教材編集の裏話、楽しんでいただけたでしょうか? 次回はまた別の視点から、製作現場の様子をシェアしたいと思います。お読みいただきありがとうございました。

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